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指輪の誓い

態度が不遜だ、といろんな人に飽きるほど言われ続けてきた半生だった。
反省だらけの半生だ。




会社等の面接時に面接官が
「尊敬する人物は?」
と質問することは、今日びではタブーになっているらしい、と最近知った。

個人情報保護やら思想の自由やら何やらと、いちいち過敏すぎるのはいかがなものかと思うし、何もタブーにまでしなくてもいいかもとは思うが、自分の値打ちが品定めされる場所において、自分の尊敬する人物の名前を利用するだなんてまっぴらごめんだね、というかんじは確かにする。

もし自分がこの質問をされたら言葉に詰まるか「それは秘密です」とか口走ったりしておそらく面接は不合格になることだろうと思う。



少ないながらも、私にも尊敬する人物はいる。
照れるけど、今日はそのことについて書いてしまおうと思う。



先日、尊敬する大先輩から一葉の葉書が届いた。

はがき
(そのまま載せるのはさすがにアレなのでノイズ入れてみた)


私がご案内を送った公演への、応援メッセージが綴られている。

この先輩が実際に劇場へ足を運んでくれることはまずないのだが、これまでにいろいろとご心配をおかけしたので近況報告を兼ねてDMを送り続けている。そのたびにこうして葉書を送ってくれるのだ。
うれしい。
しかし、さすがに毎回なので逆に負担になるかと思い、これからは時候のご挨拶のみにとどめておこうかと思っている。もうかなりのご高齢なのだ。


初めて出会った時、もうすでにおじいちゃんであった。
「稽古が嫌いなんですよ」とここだけの話ですけどね、という調子でささやいて、稽古が終わるやいなや帰路につく。
いかにも疲労困憊、という面持ちで稽古場を出るのだが、最初の角を曲がった途端すっと背筋が伸び、老人とは思えぬ足取りであっという間に歩き去ってしまった、という目撃証言が後を絶たない。


親子ほど年の離れた演出家にも決して低姿勢を崩さず、受けたダメ出しを翌日にはちょっとそれはやりすぎなんじゃ、と思うほどに拡大してやってみせる。
これは何度も真似しようと試みたが、そうそうできるものではなかった。


酒の席では若い人たちに囲まれて楽しそうにしているか、豊富な話題で若い人たちを楽しませているか、にやにやしたり顔をしながら酒宴に集う人々の似顔絵を描いているかしていた。


エピソードは数えきれない。
驚くほどの謙虚さと、反骨精神と、粋で照れ屋な江戸っ子気質を併せ持った、私にとってはまさに理想的ともいえる男性であり、俳優であり、人間であった。


私は後輩として、その背中を見ているだけで充分だった。
実際、「若い女の子が大好き」と言いながら私にはどうも食指が動かないのか、あんまりデレデレしてくれなかったし、直接の接点がしばらくなかった。



しかし、劇団生活の最後の5~6年くらいで、立て続けに共演する機会を得て、それらは私にとって決して楽しいばかりの公演ではなかったのだが、今思えば、ギリギリのところで何とか持ち直せた(決して芝居がよくなったわけではなく精神的な面でだけど)のは、この先輩が出してくれた助け舟による所が大きいと思う。


例えば、ダメだダメだといわれ続けて脳みそがマヒしかけているときにふと
「こないだね、客演の誰それさんがあなたのことをとっても感性のいい女優さんだねって言うから『そうでしょう?』って言っておきましたよ」
と、さりげなく人の話を引き合いに出して褒めてくれたり


例えば、あまり飲みにいかない私を先輩たちが気晴らしに連れ出してくれた時になぜか同席してくれて、励ましの言葉のかわりに、自分の若い時の失敗談を次々と喋って笑わせてくれたり


例えば、移動の電車で隣り合わせになった時に、最近観た芝居(芝居は観るのもやるのも嫌い、と普段は言っている)や映画や読んだ本の話から、毎日多くの人の目に触れているにもかかわらず精神的には完全にひきこもりになっていた私の、狭い世界観に風穴を開けてくれたりした。



どうしたら自分もこの人のようになれるのか、と思える人物に出会えることは、短い人生においてそうそうあるものではないだろう。

偏屈な自分にとってはなおさらだ。

私が触れられたのは齢八十になるこの人のほんのわずかな一部分にすぎないが、ヒントは山ほど与えてもらった。




稽古中(下手すりゃ本番でも)結婚指輪を外さないのはどうしてですか?
と質問したことがある。


「ああこれは…戒めです」という答えが返ってきた。


ことさらに恐妻家をアピールしているが、数々の「奥さん怖いエピソード」からは逆にご夫婦の円満さがうかがい知れる。
結婚して子供が出来てから、家族を養うために数十年間演劇の世界から完全に身を引き、子供の独立を機に復帰、という経歴を持つこの大先輩の「戒め」とは一体何なのか、わかるようでわからない。


わからないが、数々のエピソードを紐解くとその言動はすべて、自身に対する戒めの上に成り立っているような気もしてくる。
これは必要不可欠な感覚であることは間違いない。俳優として、人間として。それだけははっきりとわかった。



というわけで、劇団を辞めてからこっち、稽古中も結婚指輪をしている私だ。

ただのまねっ子ザルだし、ほとんど験担ぎみたいなものだけど。





公演初日まであと10日を切った。


無事千穐楽を終えたら、お礼の葉書をしたためよう、いつものように。



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